「あ、今日はワインの本だ。」

休み時間にまた葉月が羽生に話しかけた。
「………」
「16歳がそんなの読んでいいの?」
「18禁コーナーには置いてなかったけど。」
「あはは」
羽生が冗談ぽく返したので葉月は嬉しそうに笑った。
「それって普段読んでる料理の本と関係あるの?」
「荻田さんには関係ない。」
「ふーん…ワイン好きなの?」
「…10秒前に16だって会話したよな」
「ふふ」
葉月が笑うと、羽生はまた黙って本を読み始めた。
(ただの趣味で高校生がワインの本まで読むかなぁ…)

「葉月って最近よく羽生くんと話してるよね。」
葉月が友人たちと話していると、茅乃が言った。
「え?うーん…」
葉月は眉間にシワを寄せた。
「え?なに?」
「話してるっていうか…一方的に話しかけてるだけ?みたいな?」
葉月は羽生との会話を思い出しながら言った。
「なにそれ。ってゆーか、なんでそんなに話しかけるの?」
「なんでって?」
「だって、羽生くんてどっちかって言うと陰キャじゃない?」
「陰キャ…?」
「なんてゆーか、葉月とジャンルが違うって感じなんだけど。意外と葉月の好みのタイプってあーゆー感じ?」
茅乃がニヤっとして言った。
「そんなんじゃないよ。隣の席だからなんか話しかけちゃうんだよね。それだけ。」

(羽生くんに話しかけるのは、純粋に人間性に興味があるだけ。)
葉月がそう考えるのには理由がある。