「この後どうする?メガネ直ったから帰る?」
羽生が言った。
「あの、羽生くんがもし時間大丈夫だったら…」

30分後、二人は美術館にいた。
「お母さんにチケット貰って、明日までなんだけど…今日行こうと思ってて…」
「“一澤(いちざわ) 蓮司(れんじ)展”」
羽生が入口のポスターの文字を読み上げた。
「えっとすごくカラフルで大胆な絵を描くアーティストでね、お花とかフルーツとか最近は猫も—」

「荻田のスマホケースの絵。」

「え」
確かに葉月のスマホケースは一澤 蓮司のデザインだ。それを羽生が知っていることに驚く。

「自分だけが観察してると思ってた?」

羽生がいつもの不敵な笑みで言った。

「え!?」
(…どういう意味!?)

「そんなに気ぃつかわなくていいよ。嫌だったら来てない。」
羽生は葉月が、誘った手前 気を遣って説明しようとしていることに気づいていた。

会場に入ると、羽生は熱心に絵を見ながら時折何かを考えているようだった。
ときどき羽生が葉月に質問をしたり、葉月が好きな絵を羽生に紹介したりもした。

「家族にお土産買いたいから、ちょっと待ってて。」
展示を見終わると、葉月はミュージアムショップに向かった。