全員がくじを引き終わると、席の移動が始まった。

(一番後ろだとコンタクトしなきゃ、かな…)
葉月は裸眼でもぎりぎり黒板の字が読める程度の視力のためメガネやコンタクトをした方が良いとは思っているが、メガネはあまり好きではなく、コンタクトは面倒だと思っている。
黒板を(にら)むように目を細めた葉月がそのまま隣の窓側の席を見ると、隣の席の男子と目が合った。
目に被りそうな長い前髪に、銀色の(ふち)のメガネをかけている。

(この人は…たしか…羽ってつく…えーっと羽生(はにゅう)くん。)

「何?」
羽生に怪訝な顔で質問されて、葉月は自分が羽生を睨んだようになったことに気づいた。
「あ!ごめんっ!羽生くんを睨んだわけじゃないの。」
「………」
羽生は何か言いたげな顔をしたが、そのまま席に座って黒板の方を見た。
(隣は羽生くんかぁ。誰でもいいって思ってたけど、羽生くんは全然話したことないんだよなぁ。)
「あの…」
葉月が羽生に声をかけると、羽生はまた葉月の方を見た。
「隣、よろしくね。」
「………」
羽生は無言で軽くペコッと頭を下げて、また前を向いた。葉月の愛想笑いが行き場を無くした。

(別にいいけどめちゃくちゃ無愛想…別にいいけど…)