そう言って去ろうとするシエナの手を取り引き止めた。
彼女の瞳には涙がいっぱい溜まっていた。
その姿を見て胸が締めつけられる思いがした。


「何か訳があるなら話してくれ……!俺を頼って欲しい!」

「……っ」

「シエナの力になりたいと言っただろう?」


シエナは手のひらで顔を押さえて肩を揺らしていた。
彼女を悲しませるものは何であろうと許さない。
そんな気持ちから怒りが込み上げてくる。


「マティルダ様だけではないんです。私、本当は……っ」


シエナから聞いたのは信じられない話だった。
だがそれと同じように「やはりか」と思った。

内容はマティルダが他の令嬢達を使い、ローリー達の見えない場所でシエナに嫌がらせをしてくるというものだった。
最近、ローリー達がシエナと共にいることが多いため、マティルダは表立って攻撃できなくなっていたのだろう。
涙声でマティルダの悪事を話すシエナが可哀想で仕方なく思っていた。

(俺の婚約者でいるために、こんな卑劣なやり方をするなんて許せない)

ローリーはグッと手を握って怒りを堪えていた。
昔のマティルダならばやるだろうが、今は善人を装っている。
それなのに、こうして影では気に入らない人間を踏み躙っているのだ。

ライボルト達に相談すると皆、シエナを思いマティルダを排除するという話になった。