その言葉を聞いて勝手に体が動いた。
気付いた時にはシエナを抱きしめていた。


「シエナ、俺のせいで苦しませてすまない」

「ローリー、殿下……」

「俺がシエナを守る。だから安心してくれ」


大粒の涙をこぼすシエナを放っておくことなどできなかった。
それにマティルダの媚びるような態度は今も続いている。
善人なふりをして、こうして影では弱者を虐げていることに嫌悪感が込み上げてくる。

シエナの水浸しになったペンケースや教科書から魔法で水分を抜き取り元に戻すと、シエナは心底嬉しそうに治ったものを抱きしめている。
男爵家という立場と両親に迷惑をかけたくないというシエナの言葉と、頭を下げて御礼を言う慎ましい姿にローリーは感動していた。

ローリーはライボルト達を集めて、今日あったことを話した。
一番、大きな反応を返したのはライボルトだった。

最近、公爵邸でもマティルダは好き放題しているそうだ。
それも侍女や屋敷で働くもの達を巻き込んでいるらしい。
それを聞いてますますシエナの言葉の信憑性が増していく。

(一刻も早く、この事態を解決せねば……!)

卑劣なやり方でシエナを追い詰めていくマティルダに怒りが込み上げてくる。
父や母に訴えかけてみてもローリーの話を信じようとしない。