「あの件は、もう過ぎたことだっ!間違いだった」

「今度は妹として可愛がってやる……!」

「そ、そうだな。シエナがここに残るのなら、また婚約者としてやっていける……!そうすれば俺は王太子に戻れるだろうな」

「はぁ……」
   

マティルダはため息を吐いた。


「ライボルトお兄様に可愛がってもらわなくて結構です。それにローリー殿下と再び婚約なんて絶対に嫌ですわ」

「なっ……!以前は」

「……っ」


ライボルトとローリーは、マティルダの言葉を聞いて手のひらを握り込んだ。
今まで散々もてはやされて肯定されてきた二人からすれば、マティルダの返事は信じられないのだろう。


「ならば無理矢理連れて帰るまでだ……!」

「先程、ライボルトお兄様やシエナ様には言いましたが、ベンジャミン様がいなくとも、あなた達にわたくしを連れ戻すことは不可能です」

「…………!」

「それにわたくしはベンジャミン様と暮らす、この生活が幸せですから。さっさと国にお帰りくださいませ」
 

もうマティルダは物語に縛られなくていいし自由も手に入れて、贅沢なくらい幸せな生活を送っている今、自分の幸せだけを追い求めている目の前にいる三人に気を使うよう必要はないだろう。