両手を広げたシエナが当然のように言い放つ。
公の場でマティルダを追い詰めて国外に追い出しておいて、今更なんのつもりだと思っていた。
謝罪もなければ詳しい理由を説明されることもない。
マティルダの心の中には苛立ちとモヤモヤとした気持ちが湧き上がってくる。


「わたくしを追い出したのはあなた達の方でしょう?」

「そうだったかしら?何も覚えてないわ」

「ブルカリック王国とわたくしはもう関係ない。帰って……!」

「チッ……」


シラを切っていたシエナにマティルダがそう言うと眉を顰めた後に大きな舌打ちが聞こえた。
夜の冷たい風が二人の間を吹き抜けて髪を揺らす。
暫くの沈黙の後、シエナは首を傾げてから呟くように言った。


「やっぱりズルはダメなのね。順当にいかなくちゃ。これは間違えたシナリオだったよ」

「あなた、まさか……!」

「頭がお花畑の馬鹿な悪役令嬢でラッキーと思っていたけれど、まさか最後にこんな小賢しいことをして私を困らせるなんて…………最低よ」

「…………」

「悪役令嬢だけが幸せになるなんて、こんなシナリオは間違っているわ!間違っているなら正さなくちゃいけないわよねぇ?」

「わたくしには関係なっ……」

「──ヒロインが処刑される未来なんて、あり得ないでしょうッ!?」