シエナのふんわりとしていた雰囲気は以前とは真逆で余裕がなく切羽詰まっているように見える。
ライボルトの目は血走っており、マティルダをじっとりと恨みがこもった瞳で睨みつけている。

(ベンジャミン様が言っていた通りなんだわ。二人はやっぱり追い詰められているのね)

二人は一歩、また一歩とこちらに近づいてくる。
マティルダもそれに合わせて後退していた。
ニタリと不気味に笑っているライボルトの低い声が耳に届いた。


「久しぶりだな。マティルダ」

「ライボルトお兄様……」

「一緒に来てもらおうか」

「……!?」

「もうあなたはブルカリック王国に戻っていいのよ?」

「そうだ。今すぐにガルボルグ公爵邸に戻れ」


二人が言っている言葉の意味が理解することができなかった。
ただ〝一緒に来てもらう〟〝ブルカリック王国〟〝ガルボルグ公爵邸〟という言葉を聞いて、嫌な予感が頭をよぎる。



「代わりに私がここに残るから安心してね。あなたの役目はもう終わり。ブルカリック王国で好きに生きていいのよ?」

「何を言っているの……?」

「うふふ……だからね、私がここに残るの。私を利用しようとする馬鹿共からベンジャミン様に守ってもらうの」