(だからベンジャミン様はこんなに焦っているのかしら)
しかしベンジャミンの話を聞く限り、こんなことを引き起こすようには思えなかったからだ。
城下町にはマティルダと仲良くしてくれていた人達もいる。
それに活気はなかったとはいえ、町にはまだまだたくさんの人達が住んでいる。
心配からかマティルダは無意識に両手を胸の前で握り、祈るように合わせていた。
「気になるから、僕は少し様子を見てくるよ」
「わたくしも行きます!」
「マティルダはここにいて。君を危ない目に合わせたくないんだ」
「ですが、心配で……!何かできるかもしれないし、それにっ」
ベンジャミンはマティルダの唇に人差し指を寄せた。
言葉を遮られて眉を顰めていると、ベンジャミンはマティルダの体を抱き寄せてから額に口付けた。
「すぐ戻ってくるから」そんな言葉を残して、ベンジャミンは屋敷から出て行ってしまった。
マティルダはベンジャミンを追いかけるように窓から身を乗り出して彼を見送っていた。
妙な胸騒ぎを感じていた。
(一体、何が起こっているのかしら……)
どうやらプレゼントを渡すのはもう少し先になりそうだ。
夕食時に渡そうとテーブルの隣の棚に隠していた懐中時計が入った箱をベンジャミンが座っていたテーブルの上に置いた。
空になったお皿を片付けながら、プレゼントを渡せなかったことを後悔していた。