そしてマティルダは店員が戻ってきたのを確認してすぐに駆け寄る。
ベンジャミンに見えないように手元を隠しながら作業している店員に「ありがとうございます」と御礼を言っていた時だった。

すぐ後ろに音もなく立っているベンジャミンの姿に気づいてギョッとする。
慌てて体で隠すようにすると、ベンジャミンは店員にグッと顔を近づけた。
宝石店の店員は背中を逸らして両手をあげている。


「ひぃっ……!?」

「ベ、ベンジャミン様!?」


ベンジャミンは店員をマティルダから引き剥がすようにして腰に手を回して背に隠す。
いつもは他人に印象が残らないようにしているベンジャミンだが、今は周囲に見えるようになったようだ。

マティルダは初めからベンジャミンをバッチリと認識していたため、他の人にはどんな状態で見えているのかはわからない。
突然、はっきりと見えるようになったベンジャミンの姿に店員は震えている。

(突然、黒い鳥の仮面をつけたベンジャミン様が現れたら怖いわよね……)

このままにしておけないとマティルダはベンジャミンを制すように腰に回された腕に手を添えた。