ベンジャミンの話はまるで御伽噺のようだと思った。
彼が〝師匠〟と呼ぶ人物が何者か気になったが、ベンジャミンのように仮面を取ったことはなかったそうだ。
物理的に人と距離を取ってコミュニケーションをしていたのは、ベンジャミンを傷つけないようにしていたのではないかと語った。


「僕もずっと仮面をつけたままでいようと思っていた」

「え……?」

「でも我慢できなかった。こうして直接触れて、話してみたいと思ったのはマティルダが初めてだったから……。マティルダに触ってみてもいい?」

「もちろんですわ」


いつもは黒い手袋を嵌めているベンジャミンだが、ハーフグローブを取って今は素肌が見えている。
恐る恐る伸ばされるベンジャミンの手をとって頬を寄せた。
手のひらが優しく肌を滑る。
興奮して走り回っていたせいか、ベンジャミンの冷たい手のひらは気持ちいい。

その上から重ねるようにしてマティルダは手を添えた。
少しずつベンジャミンが心を開いてくれているようで嬉しかった。


「話してくださってありがとうございます。ベンジャミン様のことが知れて嬉しいです」

「……!」

「これから一緒に過ごしながら、お互いを知っていきましょうね」


マティルダがそう言うと、ベンジャミンは一瞬だけ泣きそうな表情を見せたが、すぐにいつものように笑みを浮かべた。