隣にいる父は額に滲む汗を拭った。
ローリーはその場に項垂れたまま動けずにいた。

それから父はベンジャミンに何を言われたのかをローリーに説明した。
ガルボルグ公爵邸に通っている時にマティルダとの関係にやましいものは一切なかったこと。
マティルダには自分が一方的に好意を寄せて彼女を助けたこと。
マティルダは何も知らなかったことを伝えたそうだ。

(あの男は、密かにマティルダに好意を寄せていただと……?)

そしてマティルダを庇うためにわざわざここに来た。
希望を踏み躙って去って行ったベンジャミンが、ローリーには悪魔のように見えた。

それから父は残酷な真実をローリーに突きつけた。


「マティルダは不貞行為をしたわけでもない。シエナは否定していても、これだけ証拠が集まればもう言い逃れは出来まい。マティルダはシエナを虐げてはいないということだ。ローリー、お前は……騙されたのだ」

「ど、どういうことですか……!?」

「お前は弄ばれ利用された……それだけだ」


ローリーの脳内にはシエナの笑顔が浮かんでいた。
しかしあれが嘘だったならば、一体何を信じればいいのかわからなくなった。