ベンジャミンのマティルダへの愛情が大きいことは明白だった。
それに幸せだと強調しているのは不安の裏返しではないだろうか。
ローリーは二人の幸せを壊すことで頭がいっぱいになっていた。


「本当にマティルダは幸せなのか?」

『…………!』

「この国に戻りたいのではないのか!?それをお前から逃れられずに苦しんでいるのではないのか?貴族の令嬢として育ったマティルダがお前と訳の分からない暮らしを本当にすると思うのか……?」

「いい加減にしろ、ローリーッ!」

「マティルダの婚約者はまだ俺だ!長年、マティルダを見てきた俺にはわかる!よく考えた方がいい……マティルダはどこで暮らすのが幸せか」


ローリーは勝ち誇ったように笑みを浮かべた。
何も語らない黒いウサギの仮面は無機質で冷たく見えた。

(こんな意味の分からない恐ろしい奴と、マティルダは心を通わせたというのか!?最強の魔法使いというのは本当だったのか……)

ベンジャミンは父の方を向きながらローリーを指さしている。


「マティルダの事情はわかった。ガルボルグ公爵にもそう伝えておく」

「え…………?」


そんなローリーの前にもう一度、光の文字が浮かぶ。


『マティルダに手を出すな。警告はしたからな……もし勝手をするならばお前の存在ごと国を消す』


そう書き残して、ベンジャミンは一瞬で消え去ってしまった。