証拠を提示しても一切動じないシエナに周囲も驚いていた。
マティルダに再び話を聞きたくとも、もうこの場にはいない。

(俺はどちらを信じればいいんだ……!)

今までにないくらい王家は揺れていた。
周囲から送られる軽蔑の眼差しはローリーにとっては耐え難いものだった。

(マティルダを取り戻しさえすればいい。まだ死んだと決まったわけじゃない!そうだ……!マティルダは死んでない)

ローリーはそれを聞いてからずっと考えていた。
そしてある答えに辿り着く。ローリーは藁にもすがる思いだった。
マティルダの靴を見つけた騎士を呼び出して聞いてみると、やはりマティルダの死体を実際に見たわけではないらしい。


「崖の下までは調べていない……!マティルダがどこかで生きている可能性があるのではないか!?」


部屋でブツブツと呟きながらローリーは考えを巡らせていた。


「マティルダがいれば元に戻れるかもしれない!あの女を取り戻せさえすれば……っ」


ローリーは藁にも縋る思いだった。
もうこれしか自分に残された道はないのだ。
その場所に向かうことを父に提案しよう立ち上がった時だった。
目の前に光り輝く文字が浮かんだ。


『……マティルダは渡さない』

「!?」


ローリーが顔を上げると強い風が吹いた。