父の必死の形相に呆然としていた。


「先程から言うベンジャミンとは誰のことを言っているのですか?」

「ベンジャミンは……そうか、ローリーはまだ知らなかったか。だが、噂には聞いたことがあるだろう?」

「いえ……興味がなくて」


ローリーは噂話などどうでもよかった。
シエナに会う前までは何にも興味を持てなかったのだ。


「彼は……最強の魔法使いだ」

「最強の、魔法使い?」

「ああ、我々もベンジャミンが何者なのか詳しくは知らない。だが彼はどの国でも英雄だ。素顔どころか声を聞いた者もいない。このブルカリック王国の危機も何度も救っている」


ローリーは目を見開いた。御伽噺でも聞いているような気分だった。
本当にそんな人物がいるのか信じられない気持ちだったが『最強の魔法使い』については噂で聞いたことがあった。
それがベンジャミンという名前だと初めて知ったのだ。


「謝礼も欲しがらないどころか、なかなか受け取らない。各国の王達は何かあった時にベンジャミンに助けてもらえるように大金を渡している。我々もそうしていた」

「……!?」

「それに自分の存在を必要以上に広げないように、そう言って去っていく」

「何故そんな大切なことを教えてくれなかったののですか!?」