婚約は並大抵のことでは破棄されることはない。
しかし、王太子の婚約者でありながらシエナに行った数々の愚行と不貞行為の証拠が揃っていれば、婚約を解消するには十分すぎるとローリーは思っていた。

(マティルダ……待っていろ)

パーティーに向けて、ローリーはシエナにドレスをプレゼントした。
ドレスを見てキラキラと瞳を輝かせて嬉しそうなシエナを見るたびに、ローリーの心は弾んでいく。
ふと、マティルダにドレスをプレゼントしたことがあっただろうかと考えたが執事に任せきりだったため、こうして女性にプレゼントを贈る楽しさを知ったのは初めてだった。

笑顔のシエナを見るとこちらまで幸せな気持ちになった。
もしかしてマティルダも……そう思ったが考えるのをやめた。
幼い頃からこだわりが強いマティルダには何を選んでも無駄だと思っていた。


そして誕生日の当日、マティルダをガルボルグ邸に迎えにいくことはなかった。

ローリーの迎えを待っているのか、マティルダは全く会場にこなかった。
しかしライボルトによれば、侍女達とパーティーに行く準備はしていたそうだ。
ガルボルグ公爵も今は不満に思うだろうが、理由を聞けば納得するだろう。