「の、飲み物、持ってくるね」
楓くんにそう伝えてドアを開けると……。
「ジュース持って来たわよ」
そこにはお母さんの姿があった。
もしかして、今の全部聞かれてた?
思いもよらないことに、体が固まってしまう。
「お邪魔してます」
楓くんは姿勢を正してお辞儀をした。
「えっと、あなたは前に会った……」
それは、以前、お母さんに怒られて家を飛び出した時のことだ。
「葉山楓です」
「楓くんね。あの時はごめんなさいね」
「いえ、俺の方こそすみませんでした。出過ぎた真似をしてしまい……」
「もういいのよ」
深々と頭を下げる楓くんにお母さんは笑って許し、明るい表情で私を見た。
「それより、小春。さっき楓くんと話せていたじゃない」
やっぱり、お母さんに聞かれてた。
久しぶりに褒めてくれたような感覚がして、嬉しいというより照れくさいという気持ちの方が強くて思わず視線を彷徨わせる。