そんな私に、楓くんは言った。

「俺は、お前のこと嫌いじゃないよ」

その言葉に驚いて思わず俯いていた顔を上げて楓くんを見る。

「できないことでも頑張ってみようとする姿勢かっこいいし、めっちゃ尊敬する」

楓くん……。

「俺もできないことはできないって勝手に決めつけるんじゃなくて、無理なことでも1回やってみようと思えたのは、小春のおかげだよ。だから、なんていうか、うまく言葉にできないけど……」

恥ずかしそうに口籠らせながらも、その綺麗な瞳は真っ直ぐに私を見据えていて……。

「俺にとって、小春は1番星だよ」

その言葉は、私の心にストンと入った。

彼からもらう言葉は、どれも優しくてとても温かい。

赤く染まった頬は、どうしたって隠し通せるものではなかった。

それから頼んでいた料理が運ばれて来て、口に運びながら楓くんと楽しいひと時を過ごした。

楓くんは、私にいろんな話をしてくれた。

この前、楓くんの妹、凛ちゃんとテレビのチャンネル争いをしては親から怒られたこと。

バイトをしている理由は、高校卒業後、調理専門学校に行くためにコツコツと貯金をしていること。

バイト始めた当初は夢がなく将来のことなんて考えていなかったけど、喫茶店で働いていくうちに調理師になりたいという夢ができたそうだ。

将来のことを考えて今から行動している楓くんは、とても立派に見えた。

それに、時々、笑顔を浮かべながら楽しそうに話す楓くんに目を奪われて、彼の話をどれも大切に聞いた。

……どうか、これが夢ならば覚めないでほしい。

なのに、現実味を帯びて、帰りの電車の時間が一刻と迫ってきているのが惜しむぐらいだった。