「人と関わるの得意なほうじゃなかったし、別に1人になっても気にしてなかった。でも、ある日、母さんに知られてしまった。その時、母さんの笑顔を消してしまったんだよ……。『お母さんが耳が聞こえないせいでごめんね』って何度も謝っていて、別に母さんはなにも悪くないのに。むしろ、悪いのはクラスの連中なのに……」

時々、苦し紛れに話をしてくれる楓くんは見るからに辛そうで。

それほど、お母さんのこと大切に思っていることが伝わってくる。

「その後、父さんが学校に来てみんなに説明してくれて事は丸く収まったけど、母さんの笑顔はなかなか戻ることはできなかったんだよ……」

【辛い出来事から立ち直るには、どうしても時間かかってしまうことだもん。楓くんも辛かったでしょ? おばさんのこともだけど、クラスメイトが言ったその一言も。みんなから無視されたことも。本当は、悲しかったんじゃない?】

「小春にはなんでもお見通しって訳か」

【だって、私には想像つくよ。これまで、数え切れないくらいの言葉に傷付いてきたから、そういうのはなんとなく分かるよ】

「……そっか。小春は凄いな。人の痛みに気付いて寄り添うことができるなんて」

楓くんのその言葉に首を横に振って否定した。

【全然凄くなんかないよ。私はただ楓くんが少しでもその痛みが減ればいいなって思っただけだよ】

「それでも、相手のこと思えるって凄いことだよ。小春は、俺が思っている以上に優しい心を持ってるんだな」

楓くんにそう言ってくれて、嬉しさもあり少し恥ずかしくもなった。