それからというものの、おばさんと凛ちゃんと楓くんは気軽に話しかけてくれて、時間を忘れてしまうぐらいとても楽しくて、気付けば夕方になっていた。
これ以上、長居させてもらうのはなんだか申し訳ないと思い帰ることにした。
「小春姉ちゃん、また来てね!」
玄関先まで見送ってくれる凛ちゃん。
それに……。
【ちょっと待ってて! 渡すものがあるの】
おばさんは急いでメモに書いて私に見せるなり、キッチンの方へと行ってしまった。
渡すものってなんだろう?
不思議に思っていると、数分もしないうちにおばさんは戻ってきた。
手にはビニール袋を持っていて、その中にはなにかがぎっしりと入っていた。
【うちで育てた野菜よ。良かったら、持って帰って】
さっき話していた時に分かったことは、楓くんのご両親は農家さんで、主に畑やビニールハウスで野菜を育てているとのこと。
【お気持ちだけで十分ですよ】
渡された紙にペンを走らせる。
こういう場合って、のこのこと貰っていいのか分からず断りの言葉を述べた。
【遠慮なんかしなくていいのよ。まだまだうちにはいっぱいあるから】
にこやかな笑顔とともに返ってきた言葉。
私は、もう断ることができずに『ありがとうございます!』と感謝の気持ちを手話で表した。
おばさんはなぜか私にその袋を渡さず、楓くんに持たせていた。