すると、おばさんはボールペンとメモ紙を持ってきて、私たちの前に座るなり、紙になにか文字を書いて私に見せた。
【可愛い子だね。お名前は?】
ボールペンを渡してくれて、緘動で手が震えるけれど、なんとか頑張って紙に書く。
【星乃小春です。手話もっと頑張ります!】
そう書いておばさんに見せると微笑んでくれた。
【無理に頑張ろうとしなくてもいいのよ。こうやって、小春ちゃんと話せるの凄く楽しいから】
おばさんは温かい言葉をかけてくれた。
ーー『無理に頑張る必要ないから』
以前、楓くんも似たようなことを言っていた。
もしかして、楓くんが優しい理由って、お母さん譲りなのかな。
それからもやりとりは続いて、徐々に緊張がほぐれてきた頃。
ガラッと玄関のドアが開く音とともに、「ただいま!」という声が聞こえた。
えっ……だ、誰?
一気にまた緊張してしまう。