招き入れられたのはリビング。
テーブルを前に腰を下ろすなり、楓くんは言った。
「さっきので分かったかもしれないけど、俺の母さん、耳が聞こえないんだ」
そういうことだったんだ。
耳が聞こえないということは、声や音が聞こえない。
だから、手話で会話をしてたんだ。
楓くんが手話できる理由が分かって、心がスッキリする。
「父さんは耳聞こえるよ。今は畑仕事に行っていていないけど。でも、まぁ、母さんと初めて会う人はびっくりするよな」
スマホを取り出して、楓くんにメッセージを送った。
【びっくりしたけど、今はそんなにびっくりしてない】
それを読んだ楓くんは意外という顔をした。
「そう言ってくれたの小春が初めてだよ。本当は、家族以外の人でこのことは誰にも言ってないんだ」
だから、この前、唯花ちゃんに聞かれた時も誤魔化してたのか。
【さっき、なに話してたの?】
「あ〜、あれね、“彼女を連れて来たの?”って聞かれたから、“違う違う。学校の友達”って伝えたんだよ」
【そういうことだったんだ】
すると、突然お邪魔したのにも関わらず、おばさんがお茶を用意してくれた。
『ありがとうございます』
緊張しながらも手話でお礼を伝えると、おばさんは驚いた顔をした。
手話で私になにか伝えてるんだけど、挨拶程度ぐらいしか知らないからよく分からない。
「“手話できるの?”って聞いてる」
ぽかんとしている私に楓くんが教えてくれた。
『まだ挨拶程度ぐらいだよ。いろいろ訳あって俺が教えたんだ』
と私の代わりに楓くんは声を発しながら手話で伝えてくれた。