……とうとう来てしまった。

放課後になって、私は目の前にある一軒家を見つめる。

着いてしまった以上、もう後戻りはできない。

「そんなに緊張しなくて大丈夫だから。自分の家だと思ってリラックスしてていいから」

隣にいる楓くんは、私を安心させるようにそう言ってくれたけど……。

私の家と楓くんの家とでは全然違うよ!

まして、友達どころか異性のお家にお邪魔するなんて初めてだ。

「ただいま」

待って、心の準備が……と伝える前に、楓くんはドアを開けてしまった。

楓くんに招きられ、とても緊張しながら恐る恐る中に入った。

廊下を歩いていると、キッチンのほうから姿を現した楓くんのお母さんとばったり会ってしまった。

……どうしよう。

“お邪魔します”と言いたいのに声がでない。

代わりに少し頭を下げると、おばさんも私を見るなり会釈をしてくれた。

おばさんは手を動かして楓くんになにか伝えている。

えっ、手話……?

私みたいに話すことができないのかな?

楓くんは慌てて首を振って手話で伝えてる。

私には2人がなにを話しているのか分からない。

呆然としていると、楓くんは私の腕を取った。

「行こう」

頷く間もなく、楓くんはスタスタと歩き出して連れられるまま私も足を動かした。