手話を教えてほしいと楓くんに伝えてから、あれから3日が経った。

昼休み、屋上でいつものように弁当を食べ終わった後、楓くんに手話を教えてもらうことがここ最近の日課だ。

でも、今日はいつもと少し違った。

「なんでお前が来るんだよ?」

楓くんは私の隣にいる人物を見た。

「別にいいじゃん!」

なんと、唯花ちゃんは友達の誘いを断ってまで私たちがいる屋上に来てくれたのだ。

「私も手話知って、小春ちゃんとたくさんお話ししたいもん!」

そう思ってくれて嬉しいな。

あの一件以降、唯花ちゃんは休憩のたびに私のところに来ては、いろんな話をしてくれる。

彼女は私のこと“小春ちゃん”と呼んでくれて、私も有野さんのことを“唯花ちゃん”と自然と呼ぶようになった。

唯花ちゃんと一緒に手話を学んで、いつか唯花ちゃんとも手話で会話できる日が来るかもと思う反面、楓くんはなんだか乗り気ではなさそう。

「あ〜。もう分かったから。お前にも手話教えるから」

「ちょっと、今、私に対して嫌そうな顔しなかった?」

「してないしてない」

「ほら、してる!」

「いいからお前は黙って聞いてろ」

「ひどっ!」

会話のテンポが速い楓くんと唯花ちゃん。

場面緘黙症の私にとっては、それはもうできないことだ。