有野さんの服装は、私たちと同じく体操着のまま。
そのことから、授業終わって着替えもせずに真っ先に私のところへ駆けつけてくれたんだ。
なんだか胸がじんと熱くなる。
有野さんに感謝の気持ちを伝えたい。
でも、唯一、言葉を伝えられるスマホは今は手元にない。
……あっ、そうだ!
昼休み、楓くんに手話を教えてもらったこと。
これなら、伝えられる!
どうしても有野さんにお礼がしたい!
緊張のあまり体がガチガチになるけれど、勇気を振り絞って手を動かした。
『ありがとう』
「……?」
でも、有野さんには伝わらず首を傾げてしまった。
手話は分かる人にしか通じないのか。
「“ありがとう”って手話で伝えてるんだよ」
すかさず楓くんがフォローしてくれた。
「あっ、そういうことだったのね! なんか嬉しい!」
有野さんは、ぱあっと笑顔を浮かべた。
「私、実はさ、前から星乃さんのこと気になってたんだよね。でも、話すことできないみたいだからどう接していいのか分からなかった。それに、以前、星乃さんがいじめられてた時、星乃さんを助けたいと思ったんだけど、私、どうすることもできなくて、ずっと後悔してた」
有野さん……。
そう思ってくれただけでも十分嬉しいよ。
「だからね、今、こうやって反応きたの凄く嬉しい!」
とても喜んでくれる有野さん。
頑張って有野さんにお礼を伝えて良かった。