「声には出せなくても思っていることいっぱいあるだろう? 先生に言われてムカついたとか、親に分かってもらえなくてモヤモヤしたとか。日頃の鬱憤をそれに込めて晴らしてみなよ。凄いスッキリするよ」

……日頃の鬱憤。

脳裏をよぎったのは昨日のこと。

ーー『星乃、勇気もって喋ってみたら?』

難波先生の言葉。

ーー『みんなが当たり前にできることが、どうしてあなたにはできないの!』

それに、お母さんの言葉。

思い出しただけでイライラしてくる。

場面緘黙症でわざと話さないんじゃない。

私だって、本当は話したいんだ……!

苛立ちをボールに込めて、思いっきりボールを投げた。

真っ直ぐにいかなくて思わぬ方向に曲がってしまったけれど、楓くんは言葉通りしっかりとボールを受け止めてくれた。

い、今……私、ボール投げれた。

緘動でできないと思っていたけど、楓くんのおかげでボールをパスすることができた。

自分がしたことに驚きのあまり呆然としているところに楓くんは言った。

「小春、できたじゃん!」

爽やかな笑顔を浮かべて、ニカっと笑う楓くん。

みんなにとってはできて当然なことだけど、1歩成長できた私に自分のことのように楓くんは喜んでくれて嬉しくなる。

それに、なんだか肩の荷が下りて、少し気持ちが軽くなった気がした。