楓くんのおかげで徐々に落ち着きを取り戻して、まだ不安は残るが家に帰る決心がついた。
夜遅いからと楓くんは送ってくれて、一緒に家の前まで辿り着いたものの、私はドアを開けることができずにいた。
お母さんと合わせる顔がない。
また、いろいろと言われてしまいそう。
怖くて足が竦む。
「大丈夫。俺がついてる」
不安でいっぱいになっているところに、後ろで私を見守っていた楓くんは隣に来るなりそっと背中に手を置いてくれた。
楓くんの言葉は、どれも優しくて、とても温かくて、私を安心させてくれる。
気持ちを落ち着かせるため深呼吸したあと、意を決して、恐る恐るドアを開けた。
ーーガチャッ。
その音に気付いたのか、お母さんが部屋から出てきた。
「小春、夜遅くまでどこ行ってたの!」
相変わらず未だ怒っているお母さんに詰め寄られ、思わず下を向いてしまう。
「……っ」
「黙っててはなにも分からないのよ⁉︎」
なんで、そういうの?
黙っているわけじゃないのに。
また、心が押し潰されそうになったその時……。
「あの……!」
隣にいた楓くんは私を庇うように1歩前に出た。
「なによ、あなたは! 部外者は口出ししないでくれるかしら?」
お母さんは怒りをそのままに楓くんを睨んだ。
けれど、彼は私のお母さんの物言いに動じることなく、真っ直ぐ向き合うなり言葉を放った。