「……ただいま」
重い足取りで家に着くと、リビングでお母さんは受話器を手にして誰かと電話をしていた。
あまり音を立てないようにキッチンに行き、冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぐと乾いた喉を潤した。
チラッとお母さんを見ると、まだ電話をしていて受話器を持ったままペコペコと頭を下げていた。
その様子からして、電話の相手はお父さんではなさそう。
宿題を済ませようと2階に足を運ぼうとしたら、突如呼び止められた。
「小春」
振り向くと、電話が終わったのかお母さんが立っていた。
「さっき、学校から電話がかかってきたわ」
それを聞いた途端、背筋が凍りついた。
お母さんのその顔を見る限り、良い話ではないことははっきりと分かった。
「まだ学校で一言も発していないって、難波先生相当困ってたわ」
その言葉に、お母さんから視線を外した。
手に持っているスクールバッグをぎゅっと握りしめる。
「なんで学校では話さないの?」
……違う。
話さないんじゃない。
話したくても話せないんだよ。
なのに、私の心の声はお母さんには届かない。
ますます険しい目つきに変わって、両手を腰に当てお母さんは大声を張り上げた。
「みんなが当たり前にできることが、どうしてあなたにはできないの!」
そんなの、自分でも分からないよ。
気がついた時には、もう話せなくなっていたんだから。
「……っ」
言い返したい言葉はたくさんあるのに声が出ない。
ここは家なのに……。