いや、正しくは体が動かなかった。

緘動の症状。

私の場合、強い不安が起こった時によく出てしまう。

それから、しばらくの間そうしていただろう。

今もなお、棒立ちしたまま固まっている私。

廊下を歩いている人たちが不思議そうにチラッと見ながら、私の横を通り過ぎていく。

そんな中、たまたま通りかかった葉山くんが声をかけてくれた。

「星乃。早く教室に戻らないと、もうすぐ5時間目始まるよ」

……そんなこと、分かってる。

でも、さっきクラスメイトから言われた言葉が体だけではなく心まで縛り付けられてるような感覚。

ーー『それに、きっとみんなそう思ってるよ』

葉山くんも、私のこと目障りって思ってる?
もし、思っているのなら、私に話しかけて来ないで。

お願いだから、そっとしといてよ。

「星乃?」

葉山くんは心配になったのか、私に手を伸ばそうとする。

でも、私はその手をパシっと払いのけた。

……なんで、今になって体が動くんだろう。

「ちょっ、星乃! どこ行くんだよ⁉︎」

葉山くんの呼びかけに反応することなく、私は教室とは逆の方向へと駆け出した。