「どうして?」

『小春はこんなにも頑張ってるのに、こう思うのは身勝手に過ぎないから』

申し訳なさそうに話す楓くんに必死に首を横に振る。

電話越しで彼に伝わるはずないのに。

そう何度も何度も。

「楓くん、身勝手じゃないよ。そう思ってくれたの凄く嬉しいよ」

『小春……』

私の名前をぽつりと言った、切なさ混じりの彼の声。

「私ね、楓くんに話したいことがたくさんあるの。でも、慣れてない場所では話せなくなって手話になってしまう。学校も未だ苦手な場所で怖くて声がでないんだ……でもね」

次の言葉は、楓くんと自分自身に言い聞かせるように発した。

「いつか学校でも楓くんと話せるようになりたい」

これが今、私のさらなる目標にしていること。

『うん、気長に待ってる』

電話越しに楓くんの嬉しそうな声が聞こえた。

空に浮かぶ月さえも笑っているようだった。