いつの間にか駅に着いて、改札口を出ると、家へとゆっくり足を進める。
田んぼが広がる畦道をとぼとぼと歩いていると、唯花ちゃんとばったり会った。
「あっ、小春ちゃんじゃん! やっほー!」
手を振りながら、私の側に駆けつけてくれた。
「小春ちゃんは、今日なにしてたの?」
唯花ちゃんの問いに手話で伝える。
『病院に行ってたんだ。今日が通院日だったから』
「そうなんだ!」
『唯花ちゃんこそ、なにしてたの?』
「私はね、さっき、本屋さんに行って来たんだ。それなのに、欲しかった雑誌がまだ置いてなかった。今日が発売日なのに……こういう時って田舎は不便だよね」
唯花ちゃんに同情するように、コクコクと頷く。
田舎は自然豊かでのんびり過ごせる反面、いろいろと苦労することがたくさん。
若者が遊べそうなレジャー施設はないし、カラオケもない。
クラスの子たちとかは、電車やバスを使ってまでカラオケに行くらしい。
私は、場面緘黙症で歌うことが難しいからカラオケにはまだ1回も行ったことがない。
そんな私の代わりではないけれど、夏には蛙がゲコゲコと大合唱する。
昼はまだしも、夜に鳴かれたら眠りにくい。
それに、少し歩いただけでも蚊に刺されやすい。
虫除けスプレーは必需品で、日焼け止めも常にバッグに忍ばせている。
「ねぇねぇ、この後、時間空いてる?」
もう用事は済んだから、私はコクリと頷く。
「じゃあさ、あの場所に行ってみない?」
唯花ちゃんが言う“あの場所”が私にはすぐに分かり、首を縦に振って賛同した。