ーーブーブー。

その時、ポケットに入れていたスマホが鈍い音を立てた。

取り出して見てみると、お母さんからの着信だ。

私が外にいる時は、電話なんてかけてくることなんてなかったのに……。

「でないの?」

「で、でるよ」

楓くんに促され慌てて通話ボタンを押しては、スマホを耳に当てた。

『もしもし、小春⁉︎』

電話越しに、お母さんの焦り声。

『今、なにしてるの? 急いで家に帰って来てちょうだい!』

ただ事でないことははっきりと感じて、背筋がピンとなる。

「……な、なにか、あったの?」

声を出してみたものの、自分でも思うぐらい小さな声。

『なにかあったのじゃないのよ! 大変なのよ!』

次にお母さんが発した言葉に、私は一気に顔が青褪めた。

「小春、どうした?」

いつの間にかお母さんとの電話は切れていて、楓くんが青褪めたまま固まっている私を覗き込む。

思いがけない緊急事態に楓くんにも伝えなきゃと思い、口を開けてみるが声どころか言葉すら出てこない。

どうしよう、どうしよう!

焦る気持ちは高まるばかり。

「小春?」

不思議に見つめる楓くんに、私は必死に言葉を探して手を動かした。

手話を読み取った楓くんも緊迫な表情に変わる。

「じゃあ、急がないと!」

楓くんは私の手を取るなり、2人して駆け出した。