おばさんが帰った後、お母さんは私に向き合った。
だけど、私たちの間にはまだぎこちなさがあり、互いに視線を彷徨わせた。
気まずい雰囲気が流れる。
お母さんに謝らなくてはいけないことがあるのに、なにから言えばいいか言葉を探していると……。
「小春、昨日はごめんなさい」
静かな沈黙の中で、先に言葉を発したのはお母さんだった。
「感情的になってしまって、あなたに言い過ぎたわ。それに、手をだしてしまったこと後悔している」
自分の言動を振り返って、深く反省するお母さん。
それに感化されて、私もすんなりと謝ることができた。
「お母さん、私の方こそごめんね。お母さんに酷いこと言って」
そう伝えると、お母さんはゆっくりと首を横に振った。
「もういいの。小春のおかげで目が覚めたのよ。お母さん、ずっと偏見だけでしか人を見ていなかった。大事な中身を知ろうとしなかったから」
「お母さん……」
「それに、さっきはありがとう。楓くんのお母さんに手話で伝えてくれて」
「ううん! 私にできることをしただけだよ」
お母さんは優しく微笑んでくれて、私もニッコリと笑顔を返す。
あんなにぎくしゃくしていたのに、お母さんとの関係を修復でき、今では心がスッキリしている。
「ねぇ、小春。今日の晩ご飯はなにがいい?」
「シチューが食べたい!」
「ふふっ。それ好きだよね」
「だって、優しい味がしてとっても美味しいんだもん」
「じゃあ今日は、小春の希望に沿ってシチューにするね」
「うん! 私も手伝うよ」
「ありがとう、小春」
軽い足取りで、お母さんと一緒にキッチンへと足を向けた。