「それでは、この内容で注文します。いつ頃出来上がりますか?」
「かしこまりました。納期は二ヶ月いただきたいのですがよろしいですか?」
「二ヶ月か……一ヶ月半は無理でしょうか?  緑夏(りょくか)の月の十三日が妻の誕生日なので、前日までに間に合いませんか?」
「そうだったのですね。それなら何がなんでも間に合わせますわ」
「ああ、ありがとうございます! よろしくお願いします」

 そう言ってがっしりと握手をかわす。よほどサプライズで喜ばせたいのだと、こちらまで笑顔になった。
 オーダーの相談が長引いていたので、そのお客様が帰ると閉店の時間になっていた。

 説明のために出していた見本品を片付けようとカウンターの中に戻って、いつものようにアレスに労いの言葉をかける。アレスは珍しく無表情で私の隣に立った。

「アレス、今日もありがとう。最後のお客様ったら、よっぽど奥様を喜ばせたいのね。可愛らしくて……」
「お嬢様。彼はすでに番がおります」
「ええ、そうね。だから、あんなに必死で可愛いじゃない」
「お嬢様」