アレスが出ていって三十分後、記念すべき瞬間が訪れた。

「あの……ここ、魔道具屋であってますか?」
「はっ、はい! ようこそ!」

 ついに、ついに第一号のお客様がやってきた! 慌ててカウンターから出ていってご用件を伺う。そういえば、こういう接客というものも初めてのことだ。
 それでもコミュニケーションなら貴族社会で鍛えてきたから大丈夫だと自分に言い聞かせる。

「魔道具をお探しですか?」
「ええ、この街は魔道具を取り扱っている店がなかったから、諦めていたんだけど……保冷機が欲しいのよね。置いているかしら?」
「はい、もちろんです! 一般的なサイズでしたらすぐにご用意できます。イレギュラーなものはお時間をいただければご希望のサイズでお作りします」

 保温機に並んでヒットした私が開発した商品だ。これは暑い時期にアイスを最後まで溶かすことなく食べたいと言った弟のために考えたものだった。
 ドロドロに溶けたアイスを前に涙ぐんでいた幼い弟が可愛かったと思い出す。

「えっ、そんなことできるの?」
「はい、私が開発した商品ですから多少の融通はききます。どれくらいの大きさをご希望ですか?」
「ウソ! 本当に開発者なの!? すごい……アレス様の言ってたこと本当だったわ……」
「アレスの紹介ですか? それならオーダー料金も割引いたします」