「あの王太子(バカ)が俺のロザリアを連れて行っただと……?」



 いつもの執事の仮面をつけるのを忘れて、思わず素が出てしまった。
 セシリオ様もブレス様もひどく青ざめた顔をしている。きっと抑えきれない殺気が漏れ出てしまったのだろう。生物として敵わないと本能でわかれば仕方のない反応だ。

「申し訳ございません。一瞬我を忘れてしまいました」
「ああ、いいんだ。仕方ないと思う。うん。それで、この手紙を姉上から預かっている」

 状況から考えてきっと俺にとっては嬉しくない内容なんだろう。まあ、ロザリアの考えそうなこともわかる。まずは手紙に目を通してみるか。


『アレスへ

 貴方に頼んだ黒水晶の収集があまりにも時間がかかっていたから、実家に戻ることにしました。正直、私の命令をすぐにこなせないので失望したわ。これならもう執事は必要ないからあとは好きにしてちょうだい。
 魔法契約も解除しておいたわ。

 私はやっぱり王太子妃になるから、ウィルバート殿下のもとに戻るわ。驚くことに殿下自ら迎えにきてくださったのよ。

 だからもう私のことは忘れて幸せになって。

                      ロザリア』