「ホント、おかしな世界よねぇ。血筋だけで物事が動くんだもの。馬鹿みたいだわ。子どもがどんなに性悪でも、王太子の婚約者になれるんだもんねぇ?」

(……あほらし)


 そういうレイラの方は、成金男爵の一人娘に生まれたらしい。礼儀作法をまともに習っていないようで、立ち居振る舞いが前世から殆ど変わっていない。いつから前世の記憶があるかは知らないけど、郷に入れば郷に従えよって思う。

 その癖彼女は、前世では親の威光をこれでもかという程利用していた。社長令嬢というステイタスを用い、同級生をまるで家来みたいに扱っていた。

 完全なるダブルスタンダード。
 もしもレイラが私よりも上の身分で生まれていたら、間違いなく今とは真逆のことを口にしていただろう。


「――――いい加減何か仰っては如何です?」


 レイラは眉間に皺を寄せ、私の言葉を待っていた。
 が、生憎彼女と口を利く気はない。どれだけ挑発されようと、謙られようと、絶対に。


「酷い女。こんなのが王太子妃になるなんて、世も末ね。あたし、カンナ様に虐められてるの!って言いふらしたら、周りはどんな反応をするかしら? 王太子殿下はあんたのこと、見捨てるんじゃない?」


 ドクン。一瞬だけ胸が騒めく。
 そんな私の反応を、レイラは目敏く見逃さなかった。