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 しばらくの間、私たちはどちらも口を利かなかった。
 正直言って、未だに状況が呑み込めていない。私にとってユージーンはユージーンで、前世と繋げて考えることは出来ない。


(だけど)

「俺はカンナが好きだよ」


 抱き寄せられ、ユージーンの胸に顔を埋める。彼の鼓動は速かった。私と同じかそれ以上。
 それだけで、色んなことがどうでも良くなった。

 だって、もう過去に苦しめられることは無い。

 レイラは一生を修道院で過ごすことになるだろう。彼女の前で読み上げた罪状の中には、私が摘発したもの以外が混ざっていた。毒薬の密輸に襲撃の計画――――ユージーンが私をこっそり守ってくれていたんだと思う。


「……悲劇のヒロインぶるなと言われましたので」


 わたしはこれから先も、強く生きて行こうと思う。
 被害者ぶることも、嘆くこともしない。

 嫌な過去は忘れて、とびきり幸せになろう。ユージーンと一緒なら、私は絶対、幸福なヒロインになれる。

 見つめ合い、微笑み合う。唇が重なり、胸が幸福感に満たされる。


「俺がカンナを幸せにするよ」


 力強いユージーンの言葉。私は満面の笑みを浮かべたのだった。