目尻に溜まる涙をキスで拭った彼は『ナナ、ありがと』と耳元で囁いた。

周りからヒューヒューと指笛が聞こえて来る。
それと同時に、盛大な拍手も。

体がまだ震えている。
絶叫系は本当に苦手なんだから。
ジルの為じゃなきゃ、こんなこと絶対しない。

ジルはゆっくりとネットの上に私を下ろした。
ふらつく私を心配して、手をぎゅっと握りながら、ほんの少し申し訳なさそうな表情を浮かべて。

「怖かったんだから…」
「ごめん」

握られている手をぎゅっと握り返す。
あなたが好きだから我慢して飛び降りたんだからね、と。

周りにいたメンバー達がヒューヒューと冷やかしの指笛をしながら、気を利かせてステージ奥へと消えてゆく。

2人だけになったステージ。
ジルは膝を折り、私の目の前に跪いた。
青い瞳が真っすぐ私を見つめて……。

「I ……love Nana,every day……forever.」
(訳:毎日…永遠に、ナナに愛を贈るよ)

ジルからのプロポーズ。
大きな一粒石のダイヤがあしらわれた指輪が目の前に現れた。

7年前、他人のプロポーズを見て涙した私が、今自分のプロポーズで涙する。
あの時と同じ人の前で。

左手薬指のごついシルバーリングを外し、彼に左手を差し出す。
『あなたの手で嵌めてね』と。

豆だらけのゴツゴツとした手が、大事そうに私の左手を支え、嬉しそうに彼は指輪を嵌めた。


サーカス団に所属している間は、ちょっとしたスリリングな事も覚悟しないと、……なのかな?

だってここ、エアリアルだよ?
こういう事は、地上に下りてからすべきじゃないの?!


~FIN~