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1カ月半後、9月上旬。

「7年間、お世話になりました」
「お疲れさん」
「岸野先輩っ、またご飯食べに行きましょうね!」
「うん」
「絶対ですよ?!」

7年半勤務した会社を今日をもって退社する。
2つ後輩の松中さんは、私のことを姉だと慕ってくれていて、頻繁にご飯に連れて行ってあげた。
うちの部署は女性社員が少ないから、必然的に頼りにされていたのだろうけど。

大きな花束を貰い、晴れやかな気持ちで職場を後にした。

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会社を退社して1週間。
本社に程近い場所に借りていたマンションを引き払ってある私は、真っ新な気持ちで新しい人生をスタートさせる。

向かった場所は名古屋に本社のあるとある企業。
3日前にその本社に顔を出し、既に入社手続きを済ませてある。

私がこれから勤務する会社での仕事は、前職と同じ『マーケティング事業部』。
大企業からの転職とあって、かなりのアドバンテージが付いていたようで、求人にあった雇用条件よりも遥かに優遇された。
それは、私に大きな期待がかけられているわけで、必然的に結果を残さないとならないのだけれど。

でも、好きな職種だからやり甲斐がある。
このために必死に勉強して資格を取ったわけだから。



スタイリッシュなスーツを着こなし、ヒール音を響かせ、『マーケティング事業部本部長 岸野七海』と書かれたネームプレートを揺らしながら、統括部長の千堂 明に連れられ、朝のミーティングが行われる場所へと。

「集合!」

千堂がパンパンと手を叩くと、その場にいるスタッフが集まり始めた。
そして……。