……そう決めた気持ちはすぐに揺らぐことになる。



「カップルシーンの撮影入ります!まずは颯汰くんと愛華ちゃんペアお願いします」



カップルシーン?

そういや、私がPV撮影に入ることになったのだけれど、どんなものを撮ろうとしているのか聞いていなかった。



「ねぇ、颯汰くん。これからする撮影ってどんなもの?」

「大丈夫。愛華ちゃんは僕に合わせてくれてればそれでいいから」



颯汰くんに合わせる……?

気持ちの準備ができぬまま、撮影がスタートした。

立ち尽くす私の左手をスっと取った颯汰くん。



「僕のことをずっと見てて?」



顔が耳元へと近づいて来たと思えば、甘い言葉を囁かれる。

それだけでぶわっと私の体は熱を持つ。

そして、私の前へ立ち膝をする颯汰くん。

そのまま握っていた左手を口元へ持っていき、手の甲に颯汰くんの柔らかい唇が当たった。


手にキスされた───


それだけで心臓がバクバクいっている。



「好きだよ、愛華ちゃん」

「……っ!?」



名前の部分は音声に入らないよう微かな声だったけれど、突然の告白にドキドキが止まらない。

これは、撮影……PV撮影のただのセリフ。

そう自分に言い聞かせても、ずっと頭の中をこだまして落ち着けそうにない。

そうこうしているうちに撮影はカットされた。