今日も彼女はそこにいた。
顔で雨を受けながら。
まるで、涙が出ない彼女に代わって天が泣いてるかのように。

いつもは閉園のアナウンスが流れると帰り出すのに、今日は動こうとしない。
まるで桜と込み入った話をしているかのようだ。
俺の入る隙間はない。
しゃーない。閉園作業が終わるまでには帰るだろう。

だが、2時間経ってもまだそこにいた。
今日の彼女は儚く一吹きで消えてしまいそうな雰囲気をまとっている。
まるでこの世界の縁に立っているかのような。
「バイバイ」
地面への小さな挨拶に違和感を覚えたが、
この時は特に気にしなかった。

あとから気づいた。
いつもの「またね」ではなく「バイバイ」であったことに。

それ以来、
彼女が来園することはなくなり、
春が消えた。