穏やかな感じで、誰にでも優しいみたい。
その他は、サッカー部でサッカーがめちゃくちゃ上手とか。
彼女はいないけど、好きな子はいるらしいとか。
茉由ちゃんは噂好きっていうわけではないけど、バレー部でいろいろ噂になってたりすることは、だいたい知ってる。
それをあたしに教えてくれたりもするんだけど……。
茉由ちゃんが言ってた、三浦くんの片想いの相手って、まさかあたしだったなんて。
まったく気が付かなかったよ。
「でも、あたし。小嶋先輩と付き合ってて」
「“一応”でしょ?」
「あ、うん」
「あんなモテる先輩じゃなくて、僕だと不満?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
「だったら、僕のことも考えてみてよ」
そう言って三浦くんは、ふっと笑った。
こ、断れなかった。
すぐに断らなきゃいけないはずなのに、断れなかった。
三浦くんのことが好きっていうわけじゃないけど。
小嶋先輩とのお付き合いは、恋愛初心者のあたしには、だいぶハードルが高かったみたい。
小嶋先輩と一緒に帰りながら、悶々と考える。
「――で、みくちゃんも一緒にやらない?」
「え?」
先輩の話を全然聞いていなかった。
「え?」と、先輩の顔を見上げながら、もう一度聞く。
「だーかーら。5月下旬にある球技大会の実行委員を一緒にやらない?って聞いたの」
「球技大会の実行委員?」
「そうそうって、まだ担任の先生から聞いてない?
おっかしいなぁ。ウチはもう俺と大森っていう女子に決まったんだけど」
あたしを見おろしながら先輩が言う。
「ウチの学校の球技大会、1年から3年までの同じクラスの全員がひとつのチームなんだよね。
だからA組のみくちゃんとA組の俺は同じチーム。
それに同じ実行委員になったら、今まで以上に一緒にいる時間が持てるってこと」
「あーはい」
「って、なにその気の抜けた声。
まぁいいや。というわけで、みくちゃんも俺と同じ球技大会実行委員に立候補してね」
先輩は華やかに、でもチャラッと軽く笑って言った。
次の日、朝のHRで担任の先生に聞かれた。
「5月31日に行われる球技大会の実行委員を決めたいのだけど、誰か立候補したい人はいるかな?」
あ、先輩の言ってたのは、このことだ。
先生に聞かれたけど、みんなきょろきょろクラス内を見回すばかりで、誰も手をあげようとしない。
そんな中、手をあげたのは、隣の席の三浦くんだった。
「はい、やりたいです」
スッと背筋を伸ばして、長い手をあげている。
「そうか、三浦くんがやってくれるか。ありがとう。あと1名はいるかな?」
先生が教室中を見渡す。
でも、誰も手をあげない。
あたしもこの空気の中、手をあげる勇気はなかった。
女子たちはみんな、三浦くんと一緒にやりたいけど……
でも手をあげる勇気は……っていう感じで、目を見合わすばかり。