「ありがとう、教えてくれて」
真菜ちゃんに頭を下げながらお礼を言う。
「でもね、過去のことだから。小嶋先輩、今はみくちゃんのことをものすごく大事にしてるみたいだよ。
お姉ちゃんも聞いたんだって。
今の彼女はみくちゃんで、ものすごく好きだって、小嶋先輩が言ってるところを」
真菜ちゃんはあたしを励ますようにそう言ってくれた。
でもあたしは、それは違うんじゃないかと思った。
だって、あたしの好きなところは、妃莉先輩の好きなところだから。
だったら、朝陽くんがあたしを好きなところはどこなんだろう?
それは具体的にはないってことなのかな。
女の子ならだれでもよかったのかな。
あたしは、朝陽くんの目にはうつってないのかな。
もし本当に、あたしの好きなところが“まぶしいくらいのまっすぐな視線”だったとしたら……。
それはあたしを通して、妃莉先輩のことを見ているってこと。
朝陽くん、妃莉先輩のこと、まだあきらめられてないんだ。
結局あたしも、その他大勢の女子たちと同じなんだ。
クラスに戻ると朝陽くんが待っていてくれた。
「みーくちゃん、どこに行ってたの~?」
「あの、用事でちょっと屋上に」
「そっか、よかった~。先に帰っちゃったのかと思った~」
朝陽くんはいつも通りの朝陽くんだったけど、あたしはもう朝陽くんのことを朝陽くんとは呼べないと思った。
小嶋先輩。
それがあたしと先輩の距離にちょうどいい。
浮かれてた自分がなんだか哀れに感じる。
「そういえばさ、みくちゃんのお誕生日っていつ? ちなみに俺は5月8日」
「あたしは5月31日です」
「そっかぁ、近いね。だったらまずは、俺のお誕生日会をしない?
こないだ言ってたハーブティーやルイボスティーのたくさんあるお店で」
「あー、はい」
いつもならうれしい先輩の声も、今はくぐもってよく聞こえない。
水の中で聞いてる感じ。
靴箱で靴に履き替えて、このまま1人で帰っちゃおうかな、そんなことを考える。
でもすぐに先輩が1年の靴箱まで来てくれた。
「今日はどこに遊びに行こうか?」
って言いながら。
「今日はみくちゃん、なんだかおとなしいね。俺と目も合わせてくれないみたいだし。どうかしたの? 体調悪い?」
先輩があたしの顔をのぞきこんだとき、
「あー、朝陽! 久しぶり~」
と言う女子の声が聞こえて、パタパタッという足音が聞こえた。
「あー、えっと……」
小嶋先輩は考え込むように、あごに人差し指をあてた。
「朝陽失礼!あたしの名前を憶えてないの?
中沢美雪! 中3のとき付き合ってた彼女の名前を忘れてどうするの」
腰に手をあてて、中沢さんは怒ったように唇を尖らせた。