チャラモテ先輩に、めちゃくちゃ溺愛されてますっ!

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「茉由ちゃん、心配しすぎ。朝陽くんはそんな人じゃないよ。


お茶とフレンチトーストをごちそうになって、それから家まで送ってもらっただけ」


茉由ちゃんと3階にあるクラスに向かって歩いていると、


「はぁぁあああ!?」


と茉由ちゃんは素っ頓狂な声をあげた。


「みく、“朝陽くん”ってなに? 昨日まで小嶋先輩って言ってなかった? 


それに、家まで送ってもらったってなに? 家の場所まで教えちゃったの!?」


「って、この鈍感無自覚みく! 昨日1日で、朝陽くんとどんだけ距離をつめてんの?」


「えー、でも。あたしは朝陽くんのことが好きなんだし、ものすごくうれしかったよ」


「はぁぁぁ……。これじゃあ、先が思いやられる。


あんな遊び人とは、早く手を切りなさい」


そう言って茉由ちゃんは盛大なため息をついた。




「みーくちゃん、みくちゃん」


放課後、その声にドアの方を向くと、朝陽くんがあたしに向かって手を振っていた。


「あ、朝陽くんっ」


あまりにうれしくて、ついつい、犬がしっぽを振るようにすぐに駆け寄ってしまった。


そんなあたしを追いかけるように、ちょっと機嫌の悪い茉由ちゃんの声が聞こえた。


「バイバイ、みく」


「あ、茉由ちゃんバイバイ、また明日ね」


振り向いて、茉由ちゃんに向かってちょっと手を振る。


「みーくちゃん、今日はみんなでカラオケに行かない?」


朝陽くんの声に前を見ると、朝陽くんのお友達らしきたぶん先輩たちが、口々におしゃべりしながら立っていた。


絢音学園はネクタイの色が全学年同じだから、ぱっと見何年生かわからない。


男子もいるし、女子もいる。


みんな3年生なのかな?


そう思っていると、スッと一瞬あたしの肩を抱いた朝陽くんが、階段に向かって歩き出した。


う、わぁ。


一瞬だったけど、一瞬だったけど!


朝陽くんに肩を抱かれてしまった。


これが茉由ちゃんの言ってたへんなことなのかな?


だったら、あたしにとってはうれしいことだよ。


心の中で茉由ちゃん向かって話しかける。


それにしても、朝陽くん。


男子とも仲がいいんだなぁ。


4人の男子とたわむれながら、楽しそうに階段をおりている。


その後ろを5人の女子が、これまた楽しそうにおしゃべりしながら階段をおりている。


あたし、この中に混じれるかなぁ。


知らない人ばっかりで心ぼそいよぉ。


そう思ったとき、朝陽くんがあたしに向かって手招きをしてくれた。


「みーくちゃん、こっちにおいで」


学校を出て、駅の近くのカラオケ店にみんなで入る。


部屋に入ってソファに腰かけるとき、あたしは一番すみのドアに近いところに座ったのだけど、またもや朝陽くんに呼ばれてしまった。


「みーくちゃん、こっちにおいで」


そう言って、ひらひらと手を振っている。


そして、自分の横に座らせると、開口一番こう言った。


「この子が俺の彼女の水野みくちゃん。すっごく可愛いでしょー。でも、あげなーい」


その声に、「うらやましいー」とか、「朝陽、泣かせんなよぉ」とか、


「あの噂は本当だったんだ。朝陽が今度は1年生と付き合ったって」とか、


「しかも、みんなに紹介してるんでしょ」「今までの朝陽じゃ、ありえなかったかも」と口々に言っている。


そのあとみんなが自己紹介をしてくれたのだけど、人数が多すぎて、早口すぎて、ちゃんと覚えられなかった。


かろうじて2年生と3年生が入り混じっているのだけはわかった。


名前はあとで朝陽くんに聞こうと思っていた時、曲のイントロが流れ始めた。


「はいはい、俺、俺!」


朝陽くんが乗り出す勢いで手をあげて、ノリノリで歌っている。


なんかあたしとは住む世界の違う人だなぁ。


茉由ちゃんが“チャラい”とか、“遊び人”とか、“すぐに彼女を変える”とか言ってたけど……。


これだけ男子にも女子にもモテていたら、その言葉もうなずける。


みんなにちょっと嫉妬しちゃうよ。


こんなに朝陽くんと仲がいいとか。


まだまだ付き合いたてのあたしは、どうしたらいいんだろうなぁ、すぐにポイされないために。


そんなことを思っていたら、「みくちゃん、今度は一緒に歌おうよ!」と朝陽くんに手首をつかまれ、みんなの前に引っ張りだされた。