次の日朝陽先輩と学校に行くと、靴箱のところで茉由ちゃんが待っていてくれた。
「どうしたの?茉由ちゃん」
と聞くと、昨日と同じように、茉由ちゃんはあたしに聞いてきた。
「昨日朝陽くんになにか変なことをされなかった?」
その質問に、ふふっと笑ってしまう。
「茉由ちゃん、心配しすぎ。朝陽くんはそんな人じゃないよ。
お茶とフレンチトーストをごちそうになって、それから家まで送ってもらっただけ」
茉由ちゃんと3階にあるクラスに向かって歩いていると、
「はぁぁあああ!?」
と茉由ちゃんは素っ頓狂な声をあげた。
「みく、“朝陽くん”ってなに? 昨日まで小嶋先輩って言ってなかった?
それに、家まで送ってもらったってなに? 家の場所まで教えちゃったの!?」
「って、この鈍感無自覚みく! 昨日1日で、朝陽くんとどんだけ距離をつめてんの?」
「えー、でも。あたしは朝陽くんのことが好きなんだし、ものすごくうれしかったよ」
「はぁぁぁ……。これじゃあ、先が思いやられる。
あんな遊び人とは、早く手を切りなさい」
そう言って茉由ちゃんは盛大なため息をついた。
「みーくちゃん、みくちゃん」
放課後、その声にドアの方を向くと、朝陽くんがあたしに向かって手を振っていた。
「あ、朝陽くんっ」
あまりにうれしくて、ついつい、犬がしっぽを振るようにすぐに駆け寄ってしまった。
そんなあたしを追いかけるように、ちょっと機嫌の悪い茉由ちゃんの声が聞こえた。
「バイバイ、みく」
「あ、茉由ちゃんバイバイ、また明日ね」
振り向いて、茉由ちゃんに向かってちょっと手を振る。
「みーくちゃん、今日はみんなでカラオケに行かない?」
朝陽くんの声に前を見ると、朝陽くんのお友達らしきたぶん先輩たちが、口々におしゃべりしながら立っていた。
絢音学園はネクタイの色が全学年同じだから、ぱっと見何年生かわからない。
男子もいるし、女子もいる。
みんな3年生なのかな?
そう思っていると、スッと一瞬あたしの肩を抱いた朝陽くんが、階段に向かって歩き出した。
う、わぁ。
一瞬だったけど、一瞬だったけど!
朝陽くんに肩を抱かれてしまった。
これが茉由ちゃんの言ってたへんなことなのかな?
だったら、あたしにとってはうれしいことだよ。
心の中で茉由ちゃん向かって話しかける。
それにしても、朝陽くん。
男子とも仲がいいんだなぁ。
4人の男子とたわむれながら、楽しそうに階段をおりている。
その後ろを5人の女子が、これまた楽しそうにおしゃべりしながら階段をおりている。
あたし、この中に混じれるかなぁ。
知らない人ばっかりで心ぼそいよぉ。
そう思ったとき、朝陽くんがあたしに向かって手招きをしてくれた。
「みーくちゃん、こっちにおいで」
学校を出て、駅の近くのカラオケ店にみんなで入る。
部屋に入ってソファに腰かけるとき、あたしは一番すみのドアに近いところに座ったのだけど、またもや朝陽くんに呼ばれてしまった。
「みーくちゃん、こっちにおいで」
そう言って、ひらひらと手を振っている。
そして、自分の横に座らせると、開口一番こう言った。
「この子が俺の彼女の水野みくちゃん。すっごく可愛いでしょー。でも、あげなーい」
その声に、「うらやましいー」とか、「朝陽、泣かせんなよぉ」とか、
「あの噂は本当だったんだ。朝陽が今度は1年生と付き合ったって」とか、
「しかも、みんなに紹介してるんでしょ」「今までの朝陽じゃ、ありえなかったかも」と口々に言っている。
そのあとみんなが自己紹介をしてくれたのだけど、人数が多すぎて、早口すぎて、ちゃんと覚えられなかった。
かろうじて2年生と3年生が入り混じっているのだけはわかった。
名前はあとで朝陽くんに聞こうと思っていた時、曲のイントロが流れ始めた。
「はいはい、俺、俺!」
朝陽くんが乗り出す勢いで手をあげて、ノリノリで歌っている。
なんかあたしとは住む世界の違う人だなぁ。
茉由ちゃんが“チャラい”とか、“遊び人”とか、“すぐに彼女を変える”とか言ってたけど……。