休日の公園で、1人ベンチに座って待っていると、親子連れやカップルが手を繋いで目の前を通り過ぎて行く。
何となく、自分がここに居てはいけないような気がして、息が詰まる。
少し前までは、私もあちら側の人間だった。
「あれ、先輩じゃないですか?」
聞き覚えのある声に話し掛けられ、びくりとする。
高めの甘ったるい鼻につく女の声。
聞き間違える筈がない。
私が通っていた大学の後輩で、同じサークルにも入っていた、水谷百合だ。
「やっぱり~、え~、すごい偶然ですね。
先輩、こんなところで何してるんですか?」
百合が小首を傾げると、ピンクブラウンに染められた、ゆるふわの髪が肩の上で揺れる。
ばっちりマスカラとアイラインを引いた目が私を見つめている。
その目を見ていると、私は、胸に重りを抱えたように動けなくなる。
「私は、別に............百合こそ、どうしてここに......」
私は、百合の視線から目を逸らし、ありったけの勇気を振り絞って答えようとした。
ちょうどその時、視界の片隅から、1人の男が百合の方へと駆け寄って来るのが目に入った。
「百合、黙っていなくなるなよな。
ほら、頼まれてたラテ」
私は、本当に心臓が止まるかと思った。
百合に駆け寄って、爽やかな顔でドリンクを手渡したのは、私の元彼だった。
「ありがとう~純也♡
ちゃんと無脂肪ミルクにしてくれた?」
「ああ、言われたとおりに......って、あれ?
西野?」
純也が私に気付き、眉を寄せた。
無言で細められた目が私を疑い、責めているのが感じられた。
――どうしてお前がここにいる?
――百合に何かしたんじゃないだろうな?
かつては、私に暖かな眼差しを向けてくれていた目が、
今や他人を見るような眼差しで私を見ている。
(ちがう、私は、何もしていない)
心の中で思うだけで、口に出しては言えず、私は、ただ俯いた。
言っても無駄だと解っているからだ。
膝の上で両手に力を込めて、ぐっと握りしめる。
「あ、先輩には、言ってなかったでしたっけ?
私たち、正式にお付き合いすることになりました♡」
百合が純也の腕に抱き着いて言った。
その言葉に、私の身体が硬直する。
予想はしていたが、実際、当人たちの口から聞くのとでは破壊力が違う。
私は、今、一体どんな顔をしているのだろう。
「先輩が色々と相談に乗ってくれたおかげです。
本当にありがとうございました♡」
いつの間にか、私の耳からは、公園の喧騒が途絶え、百合の甘ったるい声しか聞こえてこない。
百合は、私の様子など気にも留めず、嬉しそうに話を続けた。
「実は……これは、まだ誰にも話してないんですけど、
卒業したら、私たち、結婚しようって話してるんですよ。
まだ気が早いですよね~♡」
「おい、百合……」
純也が百合の言葉を嗜むように口を挟んだ。
今更、元カノである私に気を遣っているつもりだろうか。
「そう……良かったね、おめでとう」
それは、私の精一杯の虚勢。
純也が少しむっとした顔をしたが、私は、気が付かないフリをした。
百合は、私の言葉でようやく満足したのか、今度は、私のことを聞いて来る。
「先輩は、ここで誰かと待ち合わせですか?
もしかして、私たちと同じで、デートとか??」
百合は、私と純也が付き合っていたことを知らない。
だから、彼女がこうして、無邪気に無神経な質問を浴びせてくるのは致し方ないと言える。
とは言え、私の気持ちの方が付いていかない。
「私は、デートというか……」
(やだなぁ……さっさとどっかに行ってくれないかしら)
私がどう切り替えそうかと言葉を濁しながら、視線を泳がせた時だった。
突然、背後から力強い腕で抱きしめられた。
「見ーつけた。ごめんな、待った?
……あれ、お友達?」
何となく、自分がここに居てはいけないような気がして、息が詰まる。
少し前までは、私もあちら側の人間だった。
「あれ、先輩じゃないですか?」
聞き覚えのある声に話し掛けられ、びくりとする。
高めの甘ったるい鼻につく女の声。
聞き間違える筈がない。
私が通っていた大学の後輩で、同じサークルにも入っていた、水谷百合だ。
「やっぱり~、え~、すごい偶然ですね。
先輩、こんなところで何してるんですか?」
百合が小首を傾げると、ピンクブラウンに染められた、ゆるふわの髪が肩の上で揺れる。
ばっちりマスカラとアイラインを引いた目が私を見つめている。
その目を見ていると、私は、胸に重りを抱えたように動けなくなる。
「私は、別に............百合こそ、どうしてここに......」
私は、百合の視線から目を逸らし、ありったけの勇気を振り絞って答えようとした。
ちょうどその時、視界の片隅から、1人の男が百合の方へと駆け寄って来るのが目に入った。
「百合、黙っていなくなるなよな。
ほら、頼まれてたラテ」
私は、本当に心臓が止まるかと思った。
百合に駆け寄って、爽やかな顔でドリンクを手渡したのは、私の元彼だった。
「ありがとう~純也♡
ちゃんと無脂肪ミルクにしてくれた?」
「ああ、言われたとおりに......って、あれ?
西野?」
純也が私に気付き、眉を寄せた。
無言で細められた目が私を疑い、責めているのが感じられた。
――どうしてお前がここにいる?
――百合に何かしたんじゃないだろうな?
かつては、私に暖かな眼差しを向けてくれていた目が、
今や他人を見るような眼差しで私を見ている。
(ちがう、私は、何もしていない)
心の中で思うだけで、口に出しては言えず、私は、ただ俯いた。
言っても無駄だと解っているからだ。
膝の上で両手に力を込めて、ぐっと握りしめる。
「あ、先輩には、言ってなかったでしたっけ?
私たち、正式にお付き合いすることになりました♡」
百合が純也の腕に抱き着いて言った。
その言葉に、私の身体が硬直する。
予想はしていたが、実際、当人たちの口から聞くのとでは破壊力が違う。
私は、今、一体どんな顔をしているのだろう。
「先輩が色々と相談に乗ってくれたおかげです。
本当にありがとうございました♡」
いつの間にか、私の耳からは、公園の喧騒が途絶え、百合の甘ったるい声しか聞こえてこない。
百合は、私の様子など気にも留めず、嬉しそうに話を続けた。
「実は……これは、まだ誰にも話してないんですけど、
卒業したら、私たち、結婚しようって話してるんですよ。
まだ気が早いですよね~♡」
「おい、百合……」
純也が百合の言葉を嗜むように口を挟んだ。
今更、元カノである私に気を遣っているつもりだろうか。
「そう……良かったね、おめでとう」
それは、私の精一杯の虚勢。
純也が少しむっとした顔をしたが、私は、気が付かないフリをした。
百合は、私の言葉でようやく満足したのか、今度は、私のことを聞いて来る。
「先輩は、ここで誰かと待ち合わせですか?
もしかして、私たちと同じで、デートとか??」
百合は、私と純也が付き合っていたことを知らない。
だから、彼女がこうして、無邪気に無神経な質問を浴びせてくるのは致し方ないと言える。
とは言え、私の気持ちの方が付いていかない。
「私は、デートというか……」
(やだなぁ……さっさとどっかに行ってくれないかしら)
私がどう切り替えそうかと言葉を濁しながら、視線を泳がせた時だった。
突然、背後から力強い腕で抱きしめられた。
「見ーつけた。ごめんな、待った?
……あれ、お友達?」