休日の朝。
普段なら、寝たいだけ寝て、ブランチを食べに出掛ける。
一週間で一番リラックスできる日。

それが今は、見知らぬ(イケメン)と机を挟んで向かい合い、インスタントコーヒーを飲んでいる。

「つまり、あなたは、昨日私が拾って来た犬で、
 人間に姿を変えることが出来ると言うんですね」

「犬……まぁ、この世界の人は、そう呼んでいるみたいだね。
 俺たちは、<獣人(ベスティアン)>と呼んでいる」

男は、腰にバスタオルを巻きつけて、正座している。
とりあえず、これを腰に巻いてくれ、と私が頼んだのだ。
そうでも言わなければ、男は、自分が裸であることを全く気にしようとはしなかったからだ。
もちろん、私もパジャマのボタンはしっかり留めて、上からカーディガンを羽織っている。

「この世界って……あなたは一体、どこから来たって言うの?」

「俺は、<獣人(ベスティアン)>たちが暮らす異世界からやって来た。
 俺の<運命の女(ファムファタル)>を捜すために」

男は、真面目な顔でそう言った。

「異世界……あの、冗談とか、新手の詐欺とかじゃないんですよね……?」

「信じられないかもしれないが、本当なんだ。
 この世界と異なる世界は、確かにある。
 俺も、この目で、この世界を見るまでは、信じられなかった」

私は、今自分の目の前に居る男をじっと観察した。
黒と白の髪の毛に、赤茶色の毛が少し混ざっている。
その色合いは、昨夜私が拾ってきた犬の毛色にそっくりだ。

男が話す内容は、荒唐無稽な話に聞こえるが、
先程、男が犬の姿に変身して見せてくれたので、信じないわけにはいかない。
そして今は、犬の姿のままでは会話が出来ないからという理由で、再び男の姿へと戻っていた。

「とりあえず、出てってください」

「え」

「恩返しとか、結構ですので」

私がにべも無く言い捨てると、男は、ひどく傷ついた顔をした。

(う、その顔で、その表情をするのは、ずるい……)

思わず胸がきゅんとする。
言動はともかく、容姿だけは、この世界でも通用するレベルのイケメンなのだ。
しかも、先程から見えている、引き締まった上半身は、目のやり場に困ってしまう程の魅力を放っていた。

男は、まるで捨てられた子犬のような目で私を見つめた。

「運命なんだ……」

そう言って、男が机の向こう側から身を乗り出し、私の手を掴む。

「ちょ、ちょっと何を……」

男の力強い目が私を真っ直ぐ射抜く。
薄緑色のような、黄緑色のような綺麗な瞳に、私は惹き込まれた。

「俺と一生の(つがい)になって、たくさん俺の子を産んでくれ」