慌てて犬を引き離そうとしたが、力が強く、びくともしない。
犬は、カレーライスをぺろりと平らげると、お皿をペロペロと舐め始めた。

私は、お皿の方を取り上げれば良いことに後から気付き、犬から皿を取り上げた。
しかし、既にカレーライスは跡形もない。

「ど、どうしよう……お腹を壊しちゃったら……」

私は、改めて犬の様子を伺った。
カレーのルーやご飯粒がついた顔をペロペロと舌で美味しそうに舐めている。
とても満足そうだ。

まさか犬がカレーを食べるとは思わなかった。
今のところは何ともなさそうだが、もし体調を崩すようなら、明日、動物病院へ行こう……と考えたところで、私は、重大なことに気が付いた。

「あ! 私の晩御飯……」

ぐぅ……と、私のお腹が鳴る。
ついむっとなって犬を睨んだが、当の本人は、けろっとした顔で首を傾げている。

「はぁ~……私のカレーライスが……」

まあ、蓋をしていなかった私が悪い。
そう思うことにして、非常食用に買い置きしてあったカップラーメンを作って食べた。
犬が物欲しそうに近寄って来たが、今度は、死守することに成功した。

「明日は、お前が食べられそうなものを買いに行こうね」

私の言葉に答えるかのように、犬が、わん、と吠えた。

お腹が膨れたら、急に眠気が襲ってきた。
仕事で遅くなった上に、拾った犬の世話までして、私はもうくたくただった。

犬が眠れるよう、絨毯の上にクッションを並べて、ブランケットを掛けてやる。

「ほら、ここで寝るんだよ」

ぽんぽん、とクッションを軽く叩いて、教えてあげる。
すると、犬は、理解したのか、クッションの上に前足を乗せて伏せた。

私は、電気を消してベッドに入る。

(明日が休みで良かった……)

そう思いながら目を閉じると、犬が布団の中に入ってきた。

「ちょっと、お前の寝床は、あっち……」

「くぅ~ん……」

犬は、甘えた声で私に身体をすり寄せてくる。

(ハピも、寒い夜は、私の布団の中に入って来て、一緒に眠ったっけ……)

「飼い主さんと離れて、寂しいの?」

私が犬の首筋を撫でてやると、犬は、嬉しそうに私の手を舐めた。

(まぁ、今日一晩だけだし、いいか)

私は、ハピが懐かしくなって、犬を抱きしめた。
ほんのりカレーの匂いがする。

(もふもふして、あったかい……)

「飼い主が、見つかるといいね……」

犬が私の頬を舌で舐める。
私は、犬を抱きしめたまま、眠りに落ちていった。