私は、どきっとした。
(まさか、また動物愛護センターの人じゃないわよね……)
それなら居留守を使おうと心に決めながら玄関へ向かうと、ドアスコープから外を覗いた。
しかし、そこに居たのは、私が予想もしていなかった、全身雨に濡れてずぶ濡れの水谷百合の姿だった。
「どうしたの?! ずぶ濡れじゃないっ!」
慌てて扉を開けると、百合は、俯けていた顔を上げてこちらを見た。
青ざめて、まるで世界の終わりだとでも言うような表情だ。
「先輩……私……もう、どうしたらいいのか……」
傘も差さずに外を歩いて来たのだろうか。
自分の肩を抱いて震えている彼女をそのままにしてはおけず、とりあえず家の中へ入るよう促すと、乾いたタオルを取ってきて彼女にかけてやった。
「一体、何があったの?」
私が聞いても、百合は、顔を俯けて答えようとしない。
「話たくないなら、無理には聞かないけど……
とりあえず、そのままだと風邪をひくわ。
話は、お風呂に入って、身体を温めてからにしましょう」
青い顔で震えながら頷く百合を私はお風呂場へ連れて行った。
百合がお風呂に入っている間、私は、彼女の着替えを用意しておくことにする。
ダイニングから部屋に戻ると、コウヤは、大人しく映画の続きを見ていた。
どうやら、よほど気に入ったらしい。
私は、コウヤのいる部屋の扉を閉めると、ダイニングテーブルの上に暖かいお茶を用意し、そこで百合が出てくるのを待った。
お風呂から上がった百合は、私の用意したお茶を一口飲むと、少し落ち着いたようで、漸くその重い口を開いた。
「純也さんが、もう私とは結婚できないって……」
それを聞いた私は、思わず飲みかけていたお茶でむせそうになり、慌てて湯呑みを机の上に置いた。
「ぇえ、なんで?!」
「どうやら、他に気になる女性がいるみたいで……」
百合が潤んだ瞳で私を上目遣いに見る。
「先輩、何か知りませんか?」
「……私?!
いやいや、私は、何も聞いてないし……分からないよ」
顔の前で大きく手を振って否定する。
まさか純也にキスされたとは、口が裂けても言えない。
不可抗力だったとは言え、それこそ百合からしてみれば、私も裏切りの対象になってしまうだろう。
(純也のやつ……ほんと、どういうつもりなの?)
百合が肩を落として俯く。
膝の上で何かを耐えるように手を握りしめているのが分かった。
百合の頼りなげな華奢な肩が震えている。
嗚咽を堪えているようだ。
(……百合は、本当に純也のことが好きなのね。
やっぱり、本当のことを話した方が良いのかもしれない)
百合は、私と純也が付き合っていたことを知らない。
だから、純也と百合が親しくしていたことが浮気に当たるとは、思ってもいないだろう。
純也は、そういう男なのだ。
しかも、百合と結婚の約束をしている身でありながら私に迫ってくるような最低な男だ。
そんな男だからこそ、私や百合以外にも他に女の影があったとしてもおかしくない。
でも、それを百合に伝えるには、私が純也と付き合っていたことから話す必要があるだろう。
私は、迷った。
今更私が話したところで、百合が信じてくれるかどうかは分からない。
でも、やっぱりこのまま隠し続けているのは良くない気がする。
「その……百合…………あのねっ」
私が覚悟を決めて口を開いたその時、再び玄関のインターホンが鳴った。
私は咄嗟に、何故かそれが純也であるような気がした。
顔を俯けたまま上げようとしない百合を励まそうと、明るい口調で声を掛ける。
「あ、ほら。もしかしたら、純也が迎えに来てくれたのかもしれないわよ」
それはそれで正直、純也に会いたくはなかったのだが、あまりの百合の不憫さに私はすっかりそのことを忘れ、ドアスコープを覗くこともせず、扉を開けた。
しかし、そこに居たのは、純也ではなく、
昨日会ったばかりの動物愛護センターの職員たちだった。
(まさか、また動物愛護センターの人じゃないわよね……)
それなら居留守を使おうと心に決めながら玄関へ向かうと、ドアスコープから外を覗いた。
しかし、そこに居たのは、私が予想もしていなかった、全身雨に濡れてずぶ濡れの水谷百合の姿だった。
「どうしたの?! ずぶ濡れじゃないっ!」
慌てて扉を開けると、百合は、俯けていた顔を上げてこちらを見た。
青ざめて、まるで世界の終わりだとでも言うような表情だ。
「先輩……私……もう、どうしたらいいのか……」
傘も差さずに外を歩いて来たのだろうか。
自分の肩を抱いて震えている彼女をそのままにしてはおけず、とりあえず家の中へ入るよう促すと、乾いたタオルを取ってきて彼女にかけてやった。
「一体、何があったの?」
私が聞いても、百合は、顔を俯けて答えようとしない。
「話たくないなら、無理には聞かないけど……
とりあえず、そのままだと風邪をひくわ。
話は、お風呂に入って、身体を温めてからにしましょう」
青い顔で震えながら頷く百合を私はお風呂場へ連れて行った。
百合がお風呂に入っている間、私は、彼女の着替えを用意しておくことにする。
ダイニングから部屋に戻ると、コウヤは、大人しく映画の続きを見ていた。
どうやら、よほど気に入ったらしい。
私は、コウヤのいる部屋の扉を閉めると、ダイニングテーブルの上に暖かいお茶を用意し、そこで百合が出てくるのを待った。
お風呂から上がった百合は、私の用意したお茶を一口飲むと、少し落ち着いたようで、漸くその重い口を開いた。
「純也さんが、もう私とは結婚できないって……」
それを聞いた私は、思わず飲みかけていたお茶でむせそうになり、慌てて湯呑みを机の上に置いた。
「ぇえ、なんで?!」
「どうやら、他に気になる女性がいるみたいで……」
百合が潤んだ瞳で私を上目遣いに見る。
「先輩、何か知りませんか?」
「……私?!
いやいや、私は、何も聞いてないし……分からないよ」
顔の前で大きく手を振って否定する。
まさか純也にキスされたとは、口が裂けても言えない。
不可抗力だったとは言え、それこそ百合からしてみれば、私も裏切りの対象になってしまうだろう。
(純也のやつ……ほんと、どういうつもりなの?)
百合が肩を落として俯く。
膝の上で何かを耐えるように手を握りしめているのが分かった。
百合の頼りなげな華奢な肩が震えている。
嗚咽を堪えているようだ。
(……百合は、本当に純也のことが好きなのね。
やっぱり、本当のことを話した方が良いのかもしれない)
百合は、私と純也が付き合っていたことを知らない。
だから、純也と百合が親しくしていたことが浮気に当たるとは、思ってもいないだろう。
純也は、そういう男なのだ。
しかも、百合と結婚の約束をしている身でありながら私に迫ってくるような最低な男だ。
そんな男だからこそ、私や百合以外にも他に女の影があったとしてもおかしくない。
でも、それを百合に伝えるには、私が純也と付き合っていたことから話す必要があるだろう。
私は、迷った。
今更私が話したところで、百合が信じてくれるかどうかは分からない。
でも、やっぱりこのまま隠し続けているのは良くない気がする。
「その……百合…………あのねっ」
私が覚悟を決めて口を開いたその時、再び玄関のインターホンが鳴った。
私は咄嗟に、何故かそれが純也であるような気がした。
顔を俯けたまま上げようとしない百合を励まそうと、明るい口調で声を掛ける。
「あ、ほら。もしかしたら、純也が迎えに来てくれたのかもしれないわよ」
それはそれで正直、純也に会いたくはなかったのだが、あまりの百合の不憫さに私はすっかりそのことを忘れ、ドアスコープを覗くこともせず、扉を開けた。
しかし、そこに居たのは、純也ではなく、
昨日会ったばかりの動物愛護センターの職員たちだった。